戦略/ウィキメディア運動/2017/情報源/新しい声の統合報告書 (2017年7月)

概要

私たちの運動が今後15年間に築き達成すべきものを議題に、この数ヶ月、対話に新しい声を取り入れてグローバルに議論をしてきました。グローバルな問題に関する専門家との会話はヨーロッパ、アジア、アフリカ、北米、中南米で150以上行われ、実地調査の結果、インドネシアとブラジルの人々がどんな新しい方法で知識を共有しているか、掘り下げて見ることができました。政治的、社会的、経済的動向をテーマ別に分析した机上調査からは、分けへだてのない知識の未来に与える影響がわかり、将来、私たちを待ち受ける世界の状況が見えてくるのです。ウィキメディアに対する認知度の高い7つの国でブランド知名度調査を行い、ウィキメディアの存在意義を人口比で把握できました。これらの調査結果を総合するとグローバルな傾向が理解でき、さらに、私たちという運動にとって、この新しい世界を進んでいく重要なチャンスをいくつか特定できました。

得られた見識のまとめ - 対話に新しく取り入れた声の調査と取材から

知識の共有は人と人の交流と密接

  • 専門家の意見からも調査結果からも、ウィキペディアの現在の利用者像は未来には当てはまらないと強く指摘された。最新の対象にするべきなのは若者たち--スマホ世代--なのである[1]
  • 世界で最も若い地域アフリカでは2015年から2030年にかけて人口増加が15%見込まれ、高齢化する世界の労働市場に若い消費者や大卒者を送り込んで活性化すると予測される[2]
  • 専門家たちは若者たちにとってSNS (ソーシャルメディア) やチャット機能の利用が当たり前であり、また慣れ親しんだプラットフォームで情報の共有や議論をしたがると分析している[3][4]
  • 認知度が低い地域では、メッセージ用アプリを使って得た情報は、口頭で伝わった情報—速度とネットワークの範囲の差を除外—と同等であると見ている。これは高認知度の地域では見られない傾向である[1]。情報探求はますますタスクと検索優先になり、発見や閲覧を楽しむ指向は減ってきた[1]
  • インドネシアとブラジルの人々は、「信頼できる機関」が仲介したコンテンツかどうか期待していない。代わりに信頼できる個人がコンテンツを管理してほしいという調査結果がリーチにより見つかった[1]。対照的に、アメリカと西ヨーロッパ発信の情報はコミュニティの自浄メカニズムを信じるべきか警戒され、博物館や新聞など信頼できる機関に対する関心は続いている[5][6]
  • 世界人口に占める教育を受けていない15〜64歳の割合は、時間とともに減少しています。このとき世界人口におけるインターネット利用者の割合の見込みは、2016年から2021年にかけて44%から58%に上昇するとされます[7]

知識の産出・処理・共有の方法を改革する、未来の情報技術

  • 専門家は技術を使って利用者のニーズをよりよく満たすように推奨している[8]。関連性と信頼性が高く地域に根ざしたコンテンツを収集して提供する方法として、機械翻訳、AI、構造化データがあげられる[9]。またAIが改良されると、教育や情報、娯楽のサービスをリアルタイムに個人化し、自動生成された音楽やニュース、ストーリーテリングなどを提供できるという[10][11][7]
  • 専門家からは、ウィキペディアその他のプロジェクトで利用者の経験をもっと改善し、大衆向けにするように検討すべきだという意見が根強い[4]。調査結果から、発見へ導く仕掛けに加えて主要なウェブプロパティとの統合がますます重要だと示唆された[1][5]
  • たとえば技術専門家の考えでは、Googleナレッジパネルでウィキペディアのコンテンツとやりとりをさせる方法、あるいは人気のある WhatsApp、Telegram、Facebook Messenger、Instagramなどのインスタントメッセージ用アプリを使ってコンテンツを分野別のチャンネルに並べ替える方法が実現したなら、情報交換にとって最も一般的な方法になるという[4][12]。音声や映像の新技術により、人々が知識を体験し共有する方法が変わる。場面によっては文字ではなく音声による入力が使われ始め、ウィキペディアの編集者の作業に影響する可能性すらある[10]。仮想現実技術は映像、音声、触覚によるコミュニケーションのモードを対象に、参加型ではなくインタラクティブなものに注目している。

「運動」は感情や人間関係の上に築かれる

  • 調査、専門家の聞き取り調査あるいはグループの集まりから上がった声によると、ウィキペディアには価値観とアプローチを伝える努力がまだまだ足りないという[1][13][14][15]
  • ウィキメディア運動の継続と成長を促進するには、インセンティブの導入を検討すべきという考え方がある。人はどんな動機で運動に参加したくなるのか、他の人たちに参加してもらうには、私たちからどう働きかけたらよいのか?[14] ケニアの専門家の見解では、自分の文化やコミュニティの話をしようという気持ちになるかもしれないけれど、具体的に利益や人に認められるということに結びつかなければ実現しにくいという。報酬や認定または他の形での評価でも有効である[4]
  • ウィキペディアの貢献者とはどんな役割でどういう立場なのか。明確で肯定的な定義が (ボランティアでなければならないかを含めて) 決まっていると、参加する人が増えるかもしれない[4][16]

学習の基盤が進化するにつれ、利用者のニーズに最適な形は百貨事典かどうか考え直す余地がある

  • 技術のプラットフォームを進化させるという圧力が高まってきた。人々がますます携帯用のデバイスを使うようになると、ビデオや音声、映像などマルチメディアなコンテンツを作ったり共有するほうが重視され、今までのような文字情報から遠ざかっていくからだ[7]
  • AI、仮想現実、拡張現実など新しいタイプのコンテンツやプラットフォームが出現し、いろいろな意味でウィキメディアに役立つ可能性がある。ウィキメディアのプロジェクト群にコンテンツや話題を提供したり、それを配布する手段、あるいは公開編集やコンテンツ共有の精神を広める手段として使えるかもしれない[7]
  • 研究、専門家との討論によると、既存の読者も将来の読者も、求める学習用のプラットフォームは欧米中心の常識で成り立つ百科事典形式のウィキペディアではなく、現在の姿から離れることを意味しているという[1][17][16]
  • アフリカとアジアおよび中東の専門家は、世界中の新興市場で正規の学校制度は若者の落ちこぼれを止められないと確信しており、オンラインで知識を消費し処理する新しい方法の模索が始まっている[18]
  • オンラインで知識を探す人はコンパクトで視覚的な方法で短時間にコンテンツを拾い、新しいスキルを習得したいと考えている[19]。ウィキペディアの将来の利用者を予想すると、口頭や視覚的なリソースを重視しながら、文字を書いたり打ったりしないで知識を作成して転送できるプラットフォームが必要になる[20]
  • 西側諸国で歴史的に疎外されてきたコミュニティの指導者には、ウィキペディアで現在起きている文字主体の消費に対して同様の懸念をいだく人たちがいる。(ウィキペディアの)出典のガイドラインで誰と何を引用すると決まっていても、それらのコミュニティで文化を継承してきたシステムに出典の認識がないことが多いのである[16]

信頼性と公平性は真の意味では両立しない

  • ウィキペディアのコンテンツの質を議論するとき、専門家のいくつかの会話は最高品質のコンテンツは必ずしも新規で経験の浅い声(利用者)と両立しないという考えを踏まえていた。
  • 新しく迎え入れるユーザーは必ずしも公平な報告や「最高価値」の情報に価値を置かない一方で、ウィキペディアが信用できる知識源として信頼され、受け止められるか疑問がある[21]
  • 調査によると、ウィキメディア運動にまだ参加していない人々はオンライン情報を偏りがあるものとして扱い、情報の検証と使い方を適応させている[14]。ウィキペディアが編集可能なプラットフォームであると知っている人もいるものの、多くの人は実際のコンテンツを適応したり拡張したりできるとは考えていないと調査結果から示唆される[14]
  • だれでも貢献できるというウィキペディアのモデルは、認知度が低い市場ではほとんど理解されず、むしろ弱点と見なされている[1]
  • すべての人を受け入れたり取り込んだりするには、使い始めの壁の低さが決め手で、また新しい利用者をトレーニングして運動に取り込むには、経験豊富な利用者が不完全な情報でも受け入れなければならないと調査結果から示唆される[22]

知識へのアクセスに関する世界の政策決定に対して、ウィキメディアは影響し続けるべき

  • 専門家の見解では、知識のサービスがじゅうぶんでない人々にとって、ウィキメディアは知識にアクセスし作成し、保存するプラットフォームになり得る[23][5][24][15]。中には、政治的により強力なアプローチを主張する専門家もいた[「中立と沈黙とは、実際には政治的な立場を取ることである」。[23]]。
  • インターネットに接続していないユーザーがコンテンツにアクセスするには、オフラインのオプションを選ぶ必要があり、ウィキメディアは重要なキーだと考えられる。インターネット討論を手ごろな価格で実現するには、ウィキメディアが大きな役割を負うよう推奨され、特に低所得層のユーザーにとって接続の壁は、いまだにモバイルデータの経費[25][1]
  • 全体としてすべての人が無料でアクセスできるインターネットが強く望まれており、その議論でウィキメディアは発言していないと見なされている[26][27]

共同作業が強みの私たちにも方向性は必要

  • 専門家は、ウィキメディアがオープンな知識の生態系でリーダー役を務めなければならない、つまりオープンナレッジのコミュニティに向けた共有プラットフォームが特に求められていると考えている[5]。文化機関(GLAM)のデジタル知識ベースをはじめ、情報の将来に投資する他の機関(メディア、学界、参考フィールド)との協同において、私たちはもっとよいパートナーになれるはず[24]
  • クリエイティブ・コモンズ、インターネット・アーカイブなど開かれた組織には、文化や科学、知識ベースの組織との調整を改善したいという意欲がある[28]

将来の社会的・政治的な大変革を見越してリスクに備えるべき

  • 情報に対する社会としての私たちの方向性は、将来、誤った情報や偽情報、典拠の理解などにより劇的に変わる可能性がある[29]。信頼は約束されたものではない。ポピュリズムが世界的に再び高まってきた[30][23]
  • ヨーロッパの専門家は私たちに「ウィキメディアの実存と評価にとって、どんなリスクが高いか」と疑問を投げかけている。その答えを示すため、ウィキメディアはもっと積極的かつ政治的に対応する必要があると確信されている[23][5]

新しく加わった声

ここの2、3カ月間、運動戦略チームは技術、ビジネス、メディア、社会サービス、行政、教育、芸術/文化の分野にわたり230人以上の影響力のある個人やチェンジメーカーと個別聞き取り調査を行い、成果をまとめています。調査対象者の出身はアフリカ、中東、アジア、北米、中南米、ヨーロッパの十数か国にのぼります。

下のグラフには専門家を部門別、地域別に大まかに分けて示します。 下記の「ソースごとのまとめ」の項目に、国・地域ごとに全体を表示しています。

専門家58人への聞き取り調査 (まとめ)

運動戦略チームは過去2、3年間、58名の専門家単独聞き取り調査を行い成果をまとめてきました (内訳はインド(9)、インドネシア(12)、ナイジェリア、エジプト(2)、ブラジル(4)、ケニア(1)、ナイジェリア(20)、メキシコ(2)、南アフリカ(2)、タイ(2)、ウガンダ(1)、米国(3))。対象者はジャーナリスト、政府関係者、技術起業家、教育者、非営利団体のリーダーほか多くの職種が含まれます。

当初の課題と新しく生まれた展望

情報のハブ:

ウィキペディアが現在から将来にわたって世界で果たす役割を議論するにつけて最も一般的な課題は、今日、ウィキペディアは情報を求めて訪ねる先であり―包括的で(おおよその場合)信憑性があります。専門家はウィキペディアを広範な情報のハブであると考えており、答えを得た人々は利用可能な知識に簡単にアクセスできる場として、それが個々の会話の中や学校の宿題あるいは仕事場であれ、よりよい状態への足がかりを提供します。聞き取り調査では、ローカルの貢献者が提供したコンテンツに由来して一定の信頼感と信用があることが特筆されます。人々は研究の種類に関わらず、ウィキペディアが大きく躍進するきっかけになると考えており、誰でもどこからでも情報を収集することは、「知識の独占を打ち破る」と信じています。ただしウィキペディアは運動体としてもっとよく理解されるべきで、自由でより良い世界を目指す戦いであり、民主主義を強化しつつ人間同士の平等を確実にするものだという認識を広める必要があります[30]

コンテンツの質の向上が求められる

前述の専門家はまた、将来、ウィキペディアにはコンテンツの質を向上させるために4つの責任があると信じています。(1)中立な観点を保つ。(2)リーチを広げて「知識の貧困」を解決する(そのために新しいコミュニティへのアウトリーチを改善し、情報伝達の新しい媒体を採用)。(3)情報の信頼性を向上させると、それを追って評判が高まる(提供する情報の深度は一見すると「表面的」と言われがち)。(4)情報を最新に保つこと。ローカルのコンテンツプロバイダーとの連携により、新興市場でのコンテンツの品質が大幅に向上する[17]

分けへだてのない (そして本物の) 知識主義者であることがウィキペディアの役割

一般的な共通認識によると、ウィキペディアは知の生態系において同様の理想のある他の組織と協力し、無料の知識を主張するリーダーの役割を果たすべきであるということです。人によっては、ウィキペディアは目に見えない泡の中に閉じこもったままだと言い、そうではなくてリーチが広範で豊かなネットワークを備えたプレイヤーとして、自由な知識にまつわるグローバルな会話を導く力を発揮できるはずだと主張します。課題としては他に、ウィキペディアのコンテンツの完全性と正確性、さらに利用可能な知識の質の向上をめざしてプラットフォームにアクセスして参加するバリアーを低くすることがあげられました。ウィキペディアは正確で中立な情報を提供する対象を、世界の富裕層やより良い資源に手が届くユーザーに限定しないことが重要なのです。専門家の一部はウィキペディアの役割を農村部で「未接続の人をつなぐこと」だと考えています―関係のある情報へのアクセスとオフライン機能を理解することにより、ウィキペディアは知識とそれを最も必要とする人々の橋渡しをします。コミュニケーションは変革をもたらし、検閲に対抗する防壁になり得ると広く知らせる必要があるでしょう。今日の世界では、中立であるよりも客観性に神経を配らなければならないと考える専門家も一部にいます。間違った側に立つことはできないし、自由な知識の普及において価値観は重んじるべきですから、場面によっては私たちの立場をはっきり示すことも重要です[30]

知識の傾向

  • 現在と近未来はもはやモバイルに組み込まれたと言われ、他のプラットフォーム用に設計されたものはすでに時代に取り残された。専門家の予想によると15年後にはモノのインターネット、仮想現実(VR)およびAIが操作するデバイスが選ばれる。
  • 近い将来、人々は情報共有にソーシャルメディアを使うだろう。現代はなんでも共同体で発生するという通念があるなら、ウィキペディアの未来は、FacebookやWhatsApp、Instagramなどのプラットフォームで、信頼できる高品質の情報を共有できるようになるかどうかにかかっている。ラジオは今でも意識の向上に重要な役割を果たすものの、人々は学んだ内容を共有するためにソーシャルメディアを利用。事実に基づく百科事典に代わって、未来思考の作品や「○○のやり方」式のチュートリアルがオンラインコンテンツの新しい原動力になるだろう[17]
  • これらの変化を起こすのは若者。専門家の指摘では若者の年齢層が指数関数的にふくらみ、今後の知的消費行動や関連政策に最も大きな影響を与える。
  • アクセス、認知度および価格が手頃かどうか。この3点がその地域でウィキペディアの利用を妨げる最大のバリア。
  • 正規の教育制度は世界中で若者を取りこぼし、誰もが知識を消費し処理する新しい方法を模索している。オンライン学習はすでに知識を民主化する役割を果たしており、今後、さらにのびるだろう。
  • 信頼があってこそコミュニティーができる。編集者は時間をかけてコミュニティの信頼を得ていく。キャパシティ作り―コミュニティがコミュニティを支える「ウィキペディア精神」とでも呼べるようなつながり―は非常に重要な反面、インセンティブ化を通じた秩序ある方法で行う必要がある[17]

技術

  • Automation (especially related to machine learning and translation) will cause the most significant adaptation.
  • A text-only platform will be limiting given that the future is seemingly based in images, videos, and audio files and all knowledge needs to be consumable (including oral and visual histories).
  • Incorporating these medias into platforms like social media is the best path forward. The use of chat applications and video platforms are already being used to share, consume and produce information. Over the next 5-10 years, cutting-edge technology will only exacerbate the use of new platforms for content production and consumption.
  • Smartphones will be the primary device for consumption of information in an age where the internet is fast and there is a penchant for social and interconnected (and eventually where data and thus, information, are free).
  • Wikipedia needs to go beyond written knowledge and begin to think about audio and visual approaches to sharing and contributing information.

専門家の集まりのまとめ (提携団体とウィキメディア財団主催)

この2、3ヶ月、運動戦略チーム(そして運動の提携団体)は専門家や社会変革の指導者を対象に、聞き取り調査を続けてきました。その回数は都市別に次のとおり。ラゴス (18)、ナイロビ (5)、ブリュッセル (25)、サンフランシスコ (12)、チェンナイ (22)、ベルリン (15)、ワルシャワ (14)、メキシコシティー (12)、アビジャン(27)、サンティアゴ (14)、ニューヨーク (15)、テルアビブ(16)、ジャカルタ (16)。また Skoll・ワールドフォーラム、クリエイティブコモンズ・サミット、インターネットアーカイブ・シナリオ計画の懇親会でも、専門家や提携団体に質問をしました。

専門家には、ジャーナリスト、政府関係者、技術起業家、教育者、非営利団体のリーダーなど多くの職種が含まれます。その他、詩人、フェミニスト芸術史家、「アフリカデイリーニュース」ウェブ版編集者、ミュージシャン、ラジオDJ、刑事弁護士、精神分析者、OpenStreetMap・チリの社長、アメリカ自由人権協会 (ACLU) の国家安全保障プロジェクト部長をゲストとしてお招きしました。次に示すように、基本的な課題とアイデアがこれらの人々との会話から浮かび上がっています。

ウィキメディアが直面する課題

  • 地域に関連のあるコンテンツの欠如がアフリカの大きな課題。2000以上の言語を使うインターネット初心者はデジタル機器の理解力が低い上、情報の消費に植民地公用語を使うほかない。先住民族のコンテンツに触れることもアクセスすることも、一般にはチャンスがない。例えばインターネットアクセスなどインフラの不足も、人々をコンテンツ作りやアクセスから遠ざける原因[19]
  • 深刻な文化的規範がコンテンツ制作を妨げている。ケニヤ(をふくむ広く東アフリカ)の人々は、自分たちの知識の生産あるいは文書化が十分できていない。インターネット利用者のわずか1%のみがオンラインでコンテンツを作成し、90%はたとえば「いいね」やリツィートやコメントをするにとどまる。将来、インターネットへのアクセスではなく、インターネット上のコンテンツを誰が私たちのためにキュレーションしてくれるかが大きな問題。アフリカの物語は他人にハイジャックされ、アフリカ以外の人が物語を代弁し、それがアフリカ大陸に対する世界観を形作っている[4]。それに加えて、異議を唱えるのが難しい背景がある。ナイジェリアのような場所では、長老や権威者の威厳がとても重く、間違いや不足があっても容易に現状を問題にできないという[19]。インドネシアの人々のインターネット利用は消費中心で、コンテンツ制作にインターネットを使うことはほとんどしない[31]
  • 質の高いジャーナリズムに関わると危険であり、生命を脅かされるかもしれない場所がたくさんある[19]。情報の自由はなく検閲の問題がついて回り、報道の自由やジャーナリストに対する嫌がらせが多くの国で続いている。
  • コンテンツの所有権が不明。全般に透明性が欠けデジタルスペースへの関与に明確なルールがなく知的財産権が複雑で、コンテンツの所有権が曖昧。例えばナイジェリアの司法制度は弱く、悪い影響や罰を恐れずに知的財産の盗難が可能である。ウィキメディア運動は、作成するすべてのコンテンツに非商用のオープンライセンスを採用し主張するため、相手が自由な共同作業における権利放棄に消極的な場合、他の機関との協同は難しい[31]
  • ウィキペディアのオープンプラットフォームに対し、人々はその真実性と検証可能性に疑問を抱く。メキシコ人とブラジル人は「誰でも編集できる」というモデルを情報源として信頼できるかどうか、確信を持てない。公共機関や民間セクターあるいは市民社会の社会経済的背景も年齢も違う代表者の間では、たとえ偽のコンテンツを避ける規則があっても、誰でも情報を追加できるという事実は信頼性を低める直接の原因になるという基本的な同意が成立する[27]。メディアも市民社会も偽のコンテンツにさらされすぎた余り、認知のバイアスがかかった状態でしかニュースを消化できない[19]。「事後事実」が原因で公平性の紛争が危険にさらされるばかりか、科学的知識を削除したり減らす代わりに疑似科学や一般的な常識に置き換えてしまうと、ウィキペディアに重大な影響をおよぼす可能性がある[6]
  • 全般的にウィキメディアとウィキペディアが混同されている[27]。インタビューをした専門家もワークショップ参加者あるいは一般市民もウィキメディアやウィキメディア財団の内容をほとんど知らず、そればかりか、ウィキメディア財団の将来戦略において、このふたつの差別化の意識を高める戦略を改善しようとしているとは理解されなかった。ウィキペディアとそのシステムの仕組みや誰が編集するか、どんなモデルかなど、認知度は低くかった[31]。(1)文字と、「Facebook の青色」の例のように(2)色彩が認知の基本であり、視覚的なブランド訴求力も重要[24]。これとは別に、ウィキペディアのブランドに付いてまわる否定的な評価があり、「完全に信頼するわけにはいかない情報」、「概要だけの情報」、「学校では使えない」と考えられている。ブラジルとメキシコの専門家の中には、Wikileaksのような他社の名前との連想で悪い印象が付き、自国でウィキペディアのブランドを傷つけたと強調する人がいた。これに対処する提言があり、ニュースプラットフォームとそのニュースの信頼性を毎月評価する情報監査機関の設立で抑制できるという[19]
  • 他のプロバイダーが発信する「即席ニュース」「偽情報」のせいで潜在的なユーザーがウィキペディアを警戒する。将来、情報の最大の課題は、人々が膨大な量の情報に晒され、それが有力なインフルエンサーの制御力となる可能性があること[27]。世界中で、ウィキペディアのプラットフォームこそ若い世代のために真実を求める戦いをするのだという認識を広める必要がある[16]
  • 知識の伝統的な生態系が大幅に損なわれつつある。MOOC(高等教育のオンライン公開講義・履修コース)[32]他のOER(オープン教育リソース)[33]の登場により、知識の生態系は見直された。もはや大学は知識の唯一の生産者ではなく、ウィキペディアは逸脱して信頼性が低いとみなされると、将来は使用が制限されるかもしれない[31]。現在、大学が独占する認可の世界をウィキペディアは打破しようと挑戦し、大学ができないカリキュラムと認定の提供により、だれでも学位を取得できるように目指している[34]

技術に求められる役割

  • Experts in Brussels, Mexico, and Brazil, were aligned in the need of Wikipedia to move towards current and future technologies that are commonly used to access information -- more specifically audio and video; this applies not only to reading, but editing.[31] This relates to the opportunity identified in the Brazil design research, as it shows that video was the preferred source of information and educational content for most people, highlighting the lack of this kind of media on Wikipedia.
  • Technology can act as a tool in the experience of exploring knowledge. Wikipedia needs to move beyond text and reading and into interactive media like oral, instant information (a la Google glass) and multimedia (virtual study guides, etc).[24][26] Learning will be more individualized, self-directed and customised in the future. In the next 15 years, a person will decide for him- or herself how and when they want to learn, the length of the lesson, and breakpoints and pattern of what the program or course will be.[19] Wikipedia should consider investing in tools that will enable people to be smarter in communicating with Wikipedia and meet different needs (for example, answering specific questions, discovering how-to guides and trainings).[34]
  • Massive innovations in automation will minimize the human role in article creation but consideration must be given to human intelligence over artificial intelligence.[24] Technology can be a catalyst for improving the education system, but it cannot replace the value that good teachers bring to students. Technology (without proper training) can exaggerate financial problems.[4] A synergy must be created between automation and artificial intelligence.[34]
  • Over the next 15 years, Wikimedia must adopt mobile-friendly strategies. Wikipedia could use APIs to release information such as sortable tables for integration.[24]
  • We must protect the most vulnerable through anonymity. While it’s nice to know the relevant demographic information for editors and readers, it is also important to remember that anonymity is necessary for those who have the most to lose by accessing free knowledge.[16]

将来、ウィキペディアに求められる役割

  • 専門家はウィキメディアがもっと政治的になる必要性にも同意した。「中立と沈黙は実際には政治的立場を示す」と言い、オープンな知識を守るウィキメディアはより強力な政治的アプローチをとるべきだと考えた[23]。ウィキペディア運営に必要な著作権や検閲あるいはアクセスなどの課題解決には積極策が必要[26]
  • ウィキペディアはインターネットの価値を公に「普遍的な無料サービス」として強調すべき[23]
  • 専門家の意見はくみこむ検討する価値がある。既存のコンテンツにある程度の予測と予想を組み込み、信頼性を高めてもよい。専門家は、Quoraのようなプラットフォーム上のユーザーの質問に答えることができる[24]
  • ウィキメディアは世界政策を形成する道筋としてコンテンツを考えるべきだ。「社会と環境の目標に沿って知識の集積を修正する」。WMFはオープンソースの知識をめぐり、政府にロビー活動をする代理人として行動できる。
  • ’’’ウィキペディアは公共の利益を目指す真の知識を積極的に広める役割を果たすべき。 情報への公開された自由なアクセスはウィキペディアの主眼である。人々の情報の消費や創造のしかたに、独占や独裁政権あるいは政治的な介入が悪影響を及ぼさないよう、特に市民組織は断固として情報を保護する[27]。インドネシアではインターネット・プロバイダの半数以上が私企業で、分散していない。誰もが情報に平等にアクセスできる知識の民主化は非常に重要で、現在、インターネットにアクセスできない人々を考慮に入れるべき[31]
  • ウィキペディアは知識の保存に積極的な役割を果たすべきであり、閲覧者(だれの知識を優先するか)、地域との関連性、口伝えの伝統ならびにグローバルな「南の国々」における記録システムを持たない言語の包括的成長のすべての面に注目すべきである[24]。かつてインターネット上に存在したものは消滅の可能性があり、ウィキペディアはアーカイブとして機能することができる[26]。ウィキペディアの検証可能性と質の向上のために、文書化されていないローカルの知識、特に口頭伝承を引き換えにすることはできない[31]
  • ウィキメディア運動は知識の定義を拡大し、西洋以外の文化的な知識源を取り入れて知識の偏りを避けなければならない[16]

新しい利用者にとって何が魅力的か

  • 新人が参加しようとしても、今のバリアーは高すぎる。現在までに編集者のコミュニティが築き上げた壁は排他性が強く、かと言って参加者はこれを避けて通ることができない。編集者の序列、ボットやバージョンのチェック機構などの技術面、さらに編集をしたとたん味わう挫折感の苦さ―通常は編集の差し戻しという初体験―に見舞われてしまう。若い世代にとって「ずっと前からあった」ものは別に魅力的ではないし、コンテンツを作ろうとしたのにサポートを受けられなかったら、モチベーションが上がるはずはない[6]
  • Wikipedia should target younger users. We should ask the younger generation how they want to participate in Wikimedia projects and organize free space in which they can safely express themselves rather than forcing them to adapt to the current ecosystem of Wikimedia projects.[6] The younger audience is looking for brief, take-away news. We must look for ways to simultaneously cater to them without diluting our offering to existing users.[24] We can encourage the younger generation to participate by investing in their technology skills, enabling them to document and disseminate.[19]
  • Create a platform for learning, not simply a repository of knowledge. Other apps are fundamentally changing the way we learn; tools like Google take much of the low-hanging fruit when it comes to search results. In order to really engage users with the Wikipedia platform, more must be done to curate an accessible learning “journey.”[4]
  • Improve user experience in a way that appeals to the masses. For example, allow people to interact with Wikipedia content on the Google knowledge panel, and to curate channels by content area on instant messaging apps like WhatsApp and Telegram.[4] The advantage of Wikipedia might not be in creating new content but rather by summarizing and linking the current content combined with a fast reaction to changes in the world.[6]
  • ウィキペディアの編集者という役割や立場をもっと強く自覚してもらう。ブログは情熱だけで書くものではなくなった--物理的に報酬を受けるからだ。自分の話をしようという提案に乗り気になるかもしれないけれど、具体的な利益や人に認められることに結びつける必要がある[4]。ゲーム化その他の手法で承認を与えると実現しやすくなるだろう[4]
  • トレーニングと指導に投資する。ジャーナリストの分野に興味を持つ若者向けに、クラウドファンディング方式でニュースコンテンツ作りと訓練を受ける機会創出を考えたい。訓練の場でありプロ精神と技術を基準と照らして判断し、収入を得てアイデアを共有できる場を設ける[19]

協力関係を築く

  • アーカイブと図書館の利用によるパートナーシップは知識の保全に役立つ[35][5][34]
  • ウィキペディアとその姉妹プロジェクトを扱う教育プログラム機関との提携は、プラットフォームの意識を高めるために重要[24]
  • メディア企業とパートナーシップを提携することで、インターネットにつながりにくい市民に、アクセスの提供やユビキタスなメディアへの参加を促す[19]
  • 教師の養成は教育制度の変革にとって不可欠である。教育者は技術をしっかり身につけるべき[19]

重要なチャンス及び調査結果のまとめ: インドネシアとブラジルを対象にした設定調査

このまとめは2016年5月にインドネシアとブラジルで調査会社Rebootが実施した運動戦略の新しい声(旧トラック D)の調査から、主な調査結果を取り出したものです[36]。そこで浮上した課題をいくつかご紹介します。

信頼を獲得する

  • There is less of a role for neutral reporting. The trustworthiness of a piece of information (or its source) doesn’t necessarily determine its utility. Young people especially assume that most information online is biased, and they adapt how they validate and/or use information accordingly.
  • Those with low awareness of Wikipedia don’t demonstrate mistrust in Wikipedia’s content. They have few-to-no trust issues with the information that they find on the website.

より広い層のウィキペディア認知度

  • Although many people knew Wikipedia is an editable platform, they do not think of the actual content as adaptable and expandable.
  • Most respondents believed that Wikipedia was run by a for-profit technology company—and one that lacked transparency.
  • Wikipedia’s open contribution model is poorly understood, and therefore viewed as a weakness. Wikipedia must do a better job of communicating its values and how those fit into its model.

知識の傾向

  • 情報探求はますますタスクと検索優先になり、発見や閲覧を楽しむ指向は減ってきた。
  • People no longer expect their content to be mediated by “trusted institutions;” instead, they want their content curated by trusted individuals. Brands like the BBC, National Geographic and others are trusted for content creation but people no longer rely on them for curation and distribution. Digital influencers are now the new mediators of content.
  • Getting information via messaging apps is seen as equivalent to information passed on by word-of-mouth—just faster and through a broader network.
  • Both Brazilians and Indonesians are highly comfortable with using translation tools and apps to make the most of their online experience.

技術の傾向

  • Visual, real-time, and social aren’t just buzzwords; research found that they are the characteristics of content platforms that young people increasingly prefer.
  • Mobile-first users tend to be heavier users of apps, particularly those whose usage is discounted or free. This typically means messaging or social network apps. Over time, this impacts how they understand and are able to navigate the internet.
  • Cost of mobile data is a barrier to getting connected for low income users. A recent PwC study found that mobile data costs need to decrease by 65% in Indonesia and 68% in Brazil for it to be generally affordable.

協力関係を築く

  • Moving forward, Wikimedia should consider attracting and investing in allies and community members that focus not on just generating content (which is the focus of the community today), but on getting it out to people in the forums and channels they like to learn.
  • Moving forward, the movement should consider partnerships to help a) expand digital access and literacy, and b) to improve the accessibility of its content.

大きな傾向の調査概要 ー Dot Connector Studio 及び Lutman & Associates 提供

要点 1: 2030年に向けて: 誤った情報、検証、プロパガンダ[37]

In considering challenges Wikimedia will need to address with respect to misinformation over the next 10–15 years, it is important to keep in mind the three major global influencers of technology, governments and politics, and commerce, and how they relate to content (trends that can affect the actual sources used by Wikimedians to develop reliable information) and access (how and whether Wikipedia users are able to use the platform).

Technology creates many opportunities for information to be created via new means, such as AI, bots, big data, and virtual reality. The unprecedented surge in automation of knowledge creation and analysis brings both advantages and challenges. On the plus side, these tools are helping information producers, but the development of new tools can also lead to more misleading content that could pose challenges when sourcing entries.[38] In response, between now and 2030, the Wikimedia movement will need to remain vigilant and to develop new methods of verification that match these new technological capabilities. Technology also presents myriad obstacles to accessing the content served up on Wikimedia platforms, as the trend toward mobile is rapidly challenging the web-based, computer-accessed model for Wikipedia.[39] In addition, there are new means of content delivery, such as wearables, immersive rigs, and voice-activated digital assistants.

Governments and political actors have the power to both suppress and distort content by persecuting activists, journalists, academics, and other citizens, and to restrict access to Wikimedia platforms. Such government repression not only reduces source material for Wikipedia editors, but can also result in an overall chilling effect on freedom of expression for those seeking to produce or verify information. A related trend among governments and political actors is purposeful propagation of disinformation or propaganda. This not only weakens sources and therefore content on Wikipedia, but creates an overall culture of doubt related to the reliability of online information. With respect to access, primary challenges will be in censoring/blocking the Wikipedia platform, blocking online access altogether, and monitoring online access.

Commerce. The rise of commercial social media platforms over the last decade, and the concurrent decline of and trust in traditional modern news sources, creates concerns about new ways that misinformation is being filtered and delivered online and used in public discourse, especially with respect to sponsored research, advertorials, hired shills, and clickbait content. The next frontier in understanding how to combat misinformation involves developing a more sophisticated grasp on how networks help to spread it and may involve ubiquitous fact-checking.[40] Threats to access come from battles over net neutrality, filter bubbles, the rise of proprietary apps and platforms, and corporations’ willingness (or unwillingness) to provide access to Wikipedia content from within their own content properties and devices.

要点 2: 2030年に向けて: ウィキメディア運動に影響する未来の技術と傾向[7]

As people continue to adopt mobile devices and turn away from traditional text and toward creating and sharing video, audio, and visual multimedia content, pressure is growing on technology platforms to evolve. Based on a once-revolutionary and disruptive concept, Wikipedia and most of its sister projects are now facing challenges familiar to other legacy media institutions: how to adapt to new user habits and expectations and take advantage of emerging technology.

携帯端末

The adoption and penetration of mobile devices is well on its way around the world. Interestingly, one of the barriers to adoption that this report cites is a lack of local content.[41] For the Wikimedia movement, this means there’s still time to catch up, by focusing on developing mobile solutions and new partnerships that can reach and engage mobile contributors and users in countries still coming online—building on the existing strength of maintaining both a local and global presence.

新世代のプラットフォーム、コンセプトタイプ

Each of these new content types and platforms below has the potential to serve as competition for the attention and time of Wikimedia project users, as content or topics for Wikimedia projects, as potential opportunities for distributing Wikimedia projects’ content, or as vehicles for spreading the ethos of open editing and sharing of content.

1. たくさんのボット:AI、バーチャルパーソナルアシスタント(個人用仮想情報管理端末)、インタラクティブなおもちゃ

Innovations in AI can also change the way that knowledge is gathered, assembled, and synthesized. We may find that human crowdsourcing of knowledge and information—the heart and soul of the Wikimedia movement—was only one step along the way to computer-assisted analysis. Editors’ roles might morph to setting the rules and checking the creation of knowledge by automated systems rather than original writing and research.

2. 仮想現実:ニュース、教育、ゲームに利用

Like bot-driven interfaces, VR experiences have the potential to change users’ expectations about how, why and where to seek out news, information and entertainment, and how they will interact once they do. By collaborating with other movements and organizations seeking to democratize these technologies, the Wikimedia movement could find new relevance and reach.

3. その他の機器:拡張現実(AR)、ユビキタス画面、ウェアラブル端末、モノのインターネット

Visual forms of augmented reality (AR)—which superimposes computer-generated images on users’ view of the world through devices such as mobile phones, tablets, eyewear or projections—have already proven to be popular. AR applications and devices could help support Wikimedia’s mission—serving up relevant definitions and location information when users point their phones at an object or landmark.

4. オフ・ザ・グリッド:アナログはまだ死んでいない

The Wikimedia Foundation’s New Readers team has already been exploring possible formats for offline access to Wikipedia, including mobile PDFs, digital classroom systems, solar-powered terminals, pre-loaded apps and more. However, this does not preclude the possibility that better-curated data sets could be distributed via more aesthetically pleasing analog forms.

要点 3: 人口動態[2]

人口増加

地域別にはアフリカが最高で、2015年から2030年にわたる増加率は40%相当の約4億7,000万人と予測されています[42]。アジアとアフリカは2015年時点で都市化が最も遅れた地域でしたが、都市化率が最も加速すると見込まれます。アフリカは人口急増と急速な都市化の進展により、世界経済の中心になる可能性が高いのですが、世界の労働力の高齢化を改善する影響力[43]は大陸の成人が常勤職を得るかどうかにかかっています[44]

高齢化

世界では、15〜64歳の労働力年齢層に相当する人口比率の減少が予想されます。出生率の低下に起因して、ヨーロッパと北米では労働力人口比率が大幅に低下、それぞれ約5-6%の現象が予測されます[45]

教育

教育を受けていない15歳から64歳が世界人口に占める割合は、時間とともに減少しています[46]。2030年までにサハラ以南のアフリカでは無教育人口が最も減少すると予測され、今後15年間で10%減と見込まれます。さらに世界の識字率の増加は、2015年から2030年にかけて83%から90%に達します[47]

技術へのアクセス

シスコが作成したレポートによると、世界人口に占めるインターネットユーザーの割合は、2016年から2021年にかけて44%から58%に増加すると示唆されます[48]。モバイルデータのトラフィックは2016年から2021年にかけて全世界で7倍に増加すると見込まれます。これは同じ期間の固定IPトラフィックの予想成長率の2倍です。

キーポイント

ウィキメディアはアフリカの人口増加に対応しなければなりません。そうとうな伸び率が見込まれること、ウィキメディアにはアラビア語の記事や貢献者が不足していることから、アフリカ北部地域のアラビア語圏の宿泊施設を対象とする必要があります。さらに、アフリカの識字率向上が期待される中、情報技術へのアクセスはその地域の発展に大きな役割を果たします。

中国の人口増加率の見込みは低いものの、世界の人口増加に占める中国人はおよそ5,200万人と予測されます。今後15年間、中国が経済成長を牽引していく中、北京官話はビジネス言語として影響力を高めるかもしれません[49]。北京官話は世界で最も話者が多い言語でありながら、ウィキメディアの記事数では北京官話は第15位です。ウィキメディアには北京官話が堪能な貢献者が過小に代表され、8位止まりです。

ウィキペディアの認知度・受け止め方と利用状況のまとめ (2017年7月)

Wellspring Insights&Innovation 社は6月と7月にウィキペディアの認知度と受け止め方および利用状況調査を実施しており、そこから得た重要な洞察をいくつか取り上げて以下に要約します。この調査は7カ国を対象に、ウィキメディア財団職員と協力してオンラインで行いました。この研究の目的は、ウィキメディア運動のプロジェクトで最も有名なウィキペディアが一番人気という国において、運動の現状をより定量的に把握することです。

生データ、国単位のレポート、単体の実施要領を含む詳細な概要は、専用研究ページをご覧ください。以下すべての詳細は同ページからアクセスできる情報源から引用しています。

抜粋の要点

認知度

  • 7カ国すべてでロゴを見せると、インターネット利用者の80パーセント近くがウィキペディアのものだと認知。認知度の最高はスペイン (89%) 、日本が最下位 (64%)。
  • 「インターネットで情報を探すときにいちばんよく利用するウェブサイトの上位3件」を質問すると、第1位はGoogle (平均85%)、第2位以下はウィキペディア (45%)、YouTube (43%)、Yahoo! (19%)とFacebook (17%)の順。
  • 全体を見ると最初にウィキペディアと出会った場所はインターネット上が20%、授業が20%。しかし世代間で違いがあり、13〜19歳のインターネット利用者の35%が学校で最初に聞いたと言い、36〜49歳では73%がオンラインと答えた。

受け止め方

  • 7カ国すべてでウィキペディアを知っているインターネット利用者は、「誰にとっても分けへだてのない知識」 (10中8.5) 、「便利さ」 (10中8.3) と強く結びつけている。「中立的で偏見がない」(同7.0)、「透明性」 (6.9) の順位は最下位。世代間の違いが顕著で、13〜19歳の年齢層ではほとんどの属性に関してウィキペディアとの関連性に低いスコアを付けた。
  • ウィキメディアを知っているインターネット利用者に自分にとって最も重要な属性を尋ねると、最高は「有用性」、「すべての人に分けへだてのない知識」と「読みやすさ」だった。最も重要でないのは「透明性」と「広告がない」である。
  • 個人的な経験の満足度が「大きく」あがるコンテンツとは、世代を超えて「信頼性の高さ」(57%)、「質の高さ」(51%)、「より中立的」(44%)、「映像の多さ」(41%)だという。

利用状況

  • 比較すると、ウィキペディアを最も支持する視聴者がいるスペインでは13-49歳のインターネット利用者の91%がウィキペディアを認知、89%が読者。これを全ての国のインターネット利用者の平均と対比すると、認識する率は84.1%、読者率は81.1%に当たる。
  • 国別のウィキペディアでは、ロシアの読者の75%、スペインの73%が毎週、またロシアとスペインの読者の24%は毎日、読むという。毎週読む率が最も低いのは日本とイギリス (それぞれ読者の60%)。
  • 総論として、ウィキペディアの読者のおよそ半数はデスクトップやノートPC、スマートフォンから「頻繁に」アクセスしている。13〜35歳の読者層のアクセスはスマートフォンからと答える傾向があり、読者が13〜19歳の場合、頻繁にアクセスするのはSiriやAlexaなどのサービス経由だと答える率が最高 (36〜49歳の10%に対して13〜19歳は21%)。

参考文献

インドネシアとブラジルの設定調査 (再録版)

専門家の集まり

専門家の単独聞き取り調査

外部リンク

脚注

  1. a b c d e f g h i 重要なチャンスと認識の概要: インドネシアとブラジル
  2. a b 2030年に向けて:人口動態の変化 - ウィキメディアは2030年までにどのようにそのリーチを拡大できるか?
  3. 専門家の聞き取り調査、4行目、5行目、7行目、9行目
  4. a b c d e f g h i j k 技術専門家を招いたケニア戦略サロン - 2017年5月29日
  5. a b c d e f ベルリン戦略会議 - 2017年3月29日
  6. a b c d e ウィキメディア・ポーランド国別協会の提携団体主催専門家サロン - 2017年6月5日
  7. a b c d e 2030年に向けて:ウィキメディア運動に影響する未来の技術の傾向 (2017年7月)
  8. 重要なチャンスと調査結果の概要: インドネシアとブラジル
  9. ベルリン戦略サロン - 2017年3月29日
  10. a b Mary Meeker著、「2017年インターネット傾向調査」。Kleiner Perkins. 2017年5月31日。2017年6月27日閲覧。
  11. Amy Webb著、「2017年技術傾向年間報告書」。Future Today Institute、2017年。2017年6月27日閲覧。
  12. 専門家の聞き取り調査7行目、16行目、35行目
  13. NYC 戦略サロン夕食会 - 2017年5月30日; ベルリン戦略サロン - 2017年3月29日
  14. a b c d サンフランシスコ戦略サロン - 2017年3月2日
  15. a b ワシントン DC 戦略サロン:アメリカの政策専門家とリーダーを招いて - 2017年6月22日
  16. a b c d e f NYC戦略サロン夕食会 - 2017年5月30日
  17. a b c d Bill Drayton (社会的企業の専門家)、エド・ブランド (取材)。2017年6月6日
  18. 専門家の聞き取り調査24行目、33行目
  19. a b c d e f g h i j k ナイジェリア国別協会戦略夕食会第1日第2日第3日
  20. 専門家の聞き取り調査、9行目、10行目、35行目
  21. 「専門家の聞き取り調査」(Expert interviews)、30行目 、48行目
  22. 実施要領 - ブランド認知度、受け止め方、使われ方
  23. a b c d e f ブリュッセル運動戦略ディナー - 2017年3月27日
  24. a b c d e f g h i j インドの専門家ワークショップ - 2017年6月1日
  25. 専門家の意見、35行目
  26. a b c d Wikimediaチリ国別協会 - サンティアゴ戦略会合 - 2017年6月6日
  27. a b c d e メキシコ専門家ワークショップ - 2017年5月17日
  28. ベルリン戦略サロン - 2017年3月29日ならびにNYC第2回夕食会(掲載予定)
  29. Economist、2017年7月1日
  30. a b c コロンビアの政治家イングリッド・ベタンクール(Ingrid Betancourt)のインタビューによる。2017年6月8日、ジョルジュ・バルガス取材
  31. a b c d e f g 2017年7月11日ウィキメディア・インドネシア戦略サロン
  32. 大学などの高等教育機関がインターネットを通じて行う公開講義・履修コース。
  33. オープン教育リソースは教育に関する共有財作りを目的とする、世界的なコミュニティネットワーク。
  34. a b c d ウィキメディア・イスラエル・サロン戦略夕食会 - 2017年7月17日
  35. ウィキメディア・コートジボアール利用者コミュニティ戦略ミーティング - 2017年6月10日
  36. インドネシアの調査結果の草稿 2017年5月
  37. 2030年に向けて: 誤った情報、検証、プロパガンダ
  38. Bilton, Nick. “Fake news is about to get even scarier than you ever dreamed”. Vanity Fair, January 26, 2017. Accessed May 30, 2017.
  39. GSMA. “The Mobile Economy 2017”. Accessed June 1, 2017.
  40. The Hypothesis Project. “To Enable a Conversation Over the World’s Knowledge: Hypothesis Mission”. Accessed 22 May 2017.
  41. "Global Mobile Consumer Trends: 1st Edition". Deloitte, 2016. Accessed June 27, 2017.
  42. "都市化の見通し:2014年版改訂版". 国連経済社会部人口部。2017年6月15日閲覧。
  43. Hinshaw, Drew. “For a Growing Africa, Hope Mingles With Fear of the Future”(成長し続けるアフリカ、未来への恐れと希望が入り混じる). The Wall Street Journal, 2015年11月27日. 2017年7月12日閲覧.
  44. Mudele, Kolawole. "Despite Nigeria’s Economic Growth, Few Have ‘Good Jobs’"(経済成長にもかかわらずナイジェリアの雇用は少ない). Gallup, 2013年11月11日. 2017年7月13日閲覧.
  45. Lee, Ronald, and Andrew Mason. “The Price of Maturity: Aging Populations Mean Countries Have to Find New Ways to Support Their Elderly.”(成熟の対価:高齢化する国では高齢者を支援する新しい方法の模索を意味する) Finance & Development 48.2 (2011): 6–11. Print.
  46. Barro, Robert J. and Lee, Jong-Wha. “Projections of Educational Attainment by Country” (国別の教育達成率の予測). 2017年6月25日閲覧.
  47. "Country Profile."(国別プロファイル) International Futures。 2017年6月25日閲覧。
  48. Cisco Visual Networking Index: Forecast and Methodology, 2016-2021”. (シスコのビジュアルネットワーキングインデックス:予測と方法、2016-2021年)。Cisco、2017年6月6日。2017年6月25日閲覧。
  49. 将来のビジネスの言語:英語と北京官話』。Digital Jungle、2015年2月26日。2017年6月25日閲覧。